「激動の世界で日本はどう動くか」
平成をあえて総括するならば、“戦後”が完全に終わり、民主主義が大きく姿を変えた時代だったと思っている。故田中角栄元首相が「戦争経験者が国の中心にいる間はこの国は大丈夫だ。(戦争を知らない世代は)よく勉強しなければならんのだ」と言っておられたことをよく覚えている。民主主義は主権者の多数が投票に行かないと成り立たないところ、投票率は下がる一方で、このままでは民主主義の名のもとに特定のイデオロギーを持つ集団が権力を簒奪する可能性もなくはない。特に地方選挙では立候補者も減っており、投票所も減っているなどの問題があり、投票率アップに向けて自治体も努力が必要だ。
権力とメディアが一体になると民主主義は滅びる。先の大戦時、NHKの総裁は近衛文麿で、メディアが煽りに煽ったことも開戦の要因となった。開戦前に、日米開戦のシミュレーションをあらゆる角度から行うため、内閣総理大臣直属の機関として陸海軍、各省庁、民間から選抜された30代の若手エリートで構成された総力戦研究所が開設され、忖度なしの正確な情報を基に議論を尽くした結果、日本は必ず負けるとの結論が出た。しかし、報告を聞いた当時の東條陸相は「あくまで机上の空論であり、想定外の要素(時の運)を考慮していない」として一切の口外を禁じ、その報告が世に出ることはなかった。昭和天皇も開戦には懐疑的だったとされるが、この研究結果が生かされることはなく、日本は大東亜戦争に突入した。資源を求めて南方へと進軍し、初めこそ連戦連勝ではあったが、物流が軽視されていたこともあり、徐々に敗戦の色を濃くしていく。
岸田政権が「新しい資本主義」を提唱していることもあり、平成の世で姿を変えた資本主義についても述べておきたい。伝統的な資本主義の概念では人口増が前提とされるが、わが国では現在年間60万人ずつ人口が減少している。コロナ禍のソーシャルディスタンスもあり、恋愛の機会が減少し、昨年の婚姻数、出生数は戦後最低を記録した。適齢期にあたる若年層の所得が少なすぎるのも問題だ。2100年には人口半減との予測もある。目下、日本最大の課題は急激に進む少子化だ。世界でとくに人口減が著しいのが台湾、韓国、日本で、これらで少子化対策会議をやることには大きな意義があるのではないか。
伝統的な資本主義は、人口増、適切な金利、消費者の物欲、の3つを前提としている。適切な金利が存在し、必要なところに資金が回ってこそ資本主義が機能する。また、いい車に乗り、いい家に住みたいといった願望こそが資本主義の牽引力となる。GDPとは付加価値の総和なので、付加価値を上げ、消費が増えない限りGDPは上がらない。このまま消費意欲の低下が続く限り、経済の在り方を根本的に見直さねばこの国はもたない。
石破氏は、先の大戦前の開戦シミュレーションを行ったシンクタンクの例を挙げ、「データの改ざんや隠蔽はいまに始まったことではない」と指摘。また、国会対策委員長を長く務めた故竹下登元首相の「野党に重要法案を賛成してもらうのは無理でも、理解、納得してもらうことが大事だ」という発言に触れ、「議会は消化試合ではない。少数意見であっても採り入れるべき意見は採り入れていくべき」との持論を述べた。
さらに、氏は「人類の歴史は戦争の歴史である」として、天下泰平の江戸時代から富国強兵の明治時代、敗戦から経済成長を目指して現在に至るわが国の歴史について触れるとともに、ウクライナ“事変”に言及。「今日のロシアの行動を一番非難すべきは、先の大戦で50万人がシベリアに抑留された日本だ」「戦争を避けるには国と国との直接の対話しかない。国内で安全保障に関してきちんと議論すべきで、議論すればわかってくれる国民だ」と語った。憲法改正については、「故安倍元首相の遺志を継ぐのであれば、正面から議論すべき」と重ねて議論の必要性を強調した。
その後の質疑応答でも選挙の在り方、防衛費の在り方などについて活発なやりとりが行われた。